【絶縁した兄弟との遺産相続】遺産の分割方法は?
「絶縁した兄弟との遺産相続、どうやってすすめていけばいいのだろう…」
兄弟との関係が良好ではない場合、遺産相続発生時に真っ先に思い浮かぶことですよね。
円満にそしてスムーズに相続が完了することに越したことはないのですが、絶縁するほどの仲ではなかなか思うようにいかないのが現実ですよね。
「できれば顔を合わさずに手続きを進めたい」「生存すらわからないほど何年も会っていない、どうしたらいい?」「絶縁した兄弟には相続させたくない!」そんなときの対処法はあるのでしょうか?
そこで今回は、「絶縁した兄弟がいる場合の遺産相続対応策」をQ&A方式でご紹介していきます。
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目次
Q.絶縁した兄弟は遺産相続に関係ない?
A.絶縁した兄弟にも、遺産相続は関係があります。
たとえ絶縁していても、兄弟が法定相続人である限り遺産の相続権があります。
遺言書があれば原則遺言の内容に沿って遺産が分割されますが、その際に大きく偏った遺言内容であれば絶縁している兄弟は遺留分の請求をする権利もあります。
遺言書がない場合、すべての相続人が参加をして遺産分割協議に進みます。
遺産分割協議は、相続人のひとりでも不参加があればその効力はありません。また、遺産分割協議書にはすべての相続人の実印が必要です。そして、その遺産分割協議書にはすべての相続人の印鑑証明書の添付が必要となります。
よって、遺産分割協議を進めるにあたり、絶縁状態にある兄弟も話し合いに参加をし、実印を押して印鑑証明書を提出しなければなりません。
全員が遺産分割協議に参加しても、話し合いがまとまらないときは家庭裁判所での調停に進みます。それでもまとまらなかったときは審判となり、その判決で出た分割方法に沿って遺産を相することになります。
Q.相続発生から遺産分割するまでの相続財産は誰のものなの?
A.すべての相続人の共有財産です
民法で「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。」と定められています(民法898条)
相続財産の主なものとして預貯金と不動産がありますが、いずれも遺産分割前までは法定相続分での割合で共有しているものとされているため、勝手に預貯金を引き出してしまうことのないようにしましょう。
Q.相続発生時から遺産分割前までの賃貸収入は誰のもの?
2005年9月8日に行われた第一小法廷での判決例をご紹介します
被上告人…後妻
上告人…前妻の子ら
経緯
2000年2月 不動産の分割は遺産分割審判によって決定
審判内容
収益が多い不動産を後妻が取得
紛争の内容
被相続人が死亡した1996年10月から2000年2月までの間に発生していた賃貸収入(約2億円)についての分配方法
後妻は、遺産分割審判で決まった分割方法を主張し、前妻の子らは、法定相続分での分割方法を主張
判決の要旨
控訴審では後妻が勝訴したが、最高裁はこれを破棄。差し戻しとなる。
「遺産は相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するもの」とし、「この間に共有遺産である賃貸物件を管理した結果、生じた賃料債権は、各共同人がその法定相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するもの」であるとした。
したがって、最高裁では上記の内容を前提とした清算がなされるべきという判決を出した。
民法909条では「遺産分割は、相続開始時にさかのぼってその効力を生ずる」としていますが、上記の判例でいうと、相続が発生してから遺産分割前までの賃貸収入は法定相続分での分割となる、ということになります。
絶縁した兄弟との連絡手段に困っています
絶縁の状態(パターン)によって手段を選択しましょう
パターン① 絶縁した兄弟の連絡先を知っている
この場合は、相続が開始されることの旨を連絡しましょう。
「遺産分割協議時に顔を合わせたくない」という場合は、電話・メール・郵便での協議も可能です。
しかし、電話の場合は口頭でのやりとりになるため「言った、言わない」のトラブルのもとになりかねません。できれば記録に残るようなやりとりを選択することをおすすめします。
連絡をとった上で、相手が遺産分割協議に応じる姿勢がない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停もしくは遺産分割審判の申し立てをします。
パターン② 絶縁した兄弟の連絡先がわからない
まずは兄弟の「戸籍の附票」を取り寄せてみましょう。
戸籍の附票は、本籍を置いている役所で取り寄せることができます。
この戸籍の附票を取り寄せることで、過去から現在までの住所移転履歴がわかるので、現在の住所を特定しましょう。
住所がわかれば、手紙や直接出向くなどして連絡をとります。
留意事項
戸籍の附票を取得できる人は、本人もしくは同一戸籍の人、および直系親族です。
代理人が取得する場合は委任状が必要になります。
取得方法は直接窓口か郵送にて請求できます(本人確認書類必須)。
不在者財産管理人を選任して遺産分割協議を進める方法
上記の手段を得て、それでも連絡先がわからない場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任請求をし、不在者財産管理人と遺産分割協議をすすめる方法もあります。
申立て費用:収入印紙800円分 予納郵便切手(各家庭裁判所に要確認)
不在者財産管理人を選任する手続きの流れ
- 管轄の家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申し立てをする
- 不在者財産管理人が選任される
- 不在者財産管理人は家庭裁判所から権限外行為許可※を得る
- 不在者財産管理人は不在者に代わって、遺産分割協議をすすめる
権限外行為許可
不在者財産管理人が、不在者に代わって遺産分割協議に参加することや、財産の管理や保存、処分など、民法103条に定められた権限を越える行為をするために家庭裁判所の許可を得ること。
留意事項
不在者財産管理人から報酬の請求があった場合は家庭裁判所の判断により、不在者の財産から報酬が支払われることになります。
(不在者財産管理人申し立てについての詳細は裁判所HPを参照)
パターン③ 絶縁した兄弟と何年も会っていない。消息が不明である。
失踪宣告の申し立てができます。
また、災害などで生死が不明な場合は、危難が去って1年間経過していれば、その消息不明者は法律上において死亡したものとみなされます。
申立て費用:収入印紙800円分 予納郵便切手(各家庭裁判所に要確認)
官報広告料4816円(裁判所から指示が出てから納める)
失踪宣告申し立ての手続きの流れ
- 管轄の家庭裁判所に失踪宣告の申し立てをする
- 家庭裁判所による調査(申立人や親戚に調査・官報で失踪に関する届出の催告)
- 失踪宣告の審判確定
- 審判が確定してから10日以内に自治体に失踪の届け出を提出
- 失踪宣告確定証明書の発行は、家庭裁判所にある申請用紙に必要事項を記入して収入印紙を添えて提出。(郵送希望であれば、返信用封筒と切手も必要)
留意事項
失踪宣告の申請をしてから、失踪宣告の確定がでるまでおおよそ1年ほどかかります。
相続税の申告期限は10カ月と定められているため、失踪宣告を待っていると間に合いません。
こういったことを踏まえると、遺産分割協議を期限内に進めるには不在者財産管理人を選任したほうがスムーズであると考えられます。
また、失踪宣告されていた相続人が現れて、失踪宣告の取り消しが認められた場合、その相続人の法定相続分が復活することになります。
さらに、失踪宣告が確定してもその失踪者に子がいる場合、その子が代襲相続することになります。
Q.「遺産を相続させたくない兄弟がいる」対処法はありますか?
あります。相続人の廃除という制度がありますが、家庭裁判所での審判が必要です。
相続人廃除
遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待行為をしたり、重大な侮辱を与えたりした場合、被相続人の意思で家庭裁判所に申請をし、その推定相続人を廃除する制度です。
単に、「絶縁しているため」という事由では認められません。
- 被相続人に対する虐待
- 被相続人に対する重大な侮辱
- 著しい非行
上記のよう事由があれば、相続人を廃除することが可能です。
絶縁状態にある兄弟が上記のような事由を行った経緯があるならば、あらかじめ遺言書にその旨を記載し、生前に廃除の申立てをします。
また、生前廃除の申立てはしていないが遺言書にその旨の記載があれば、遺言執行者を通して廃除の申立てができます。
留意事項
廃除できる推定相続人は、遺留分が認められている被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に限られています。
被相続人の兄弟姉妹は推定相続人ではありますが、兄弟姉妹には遺留分の請求が認められていません。よって、遺言などで指定していれば相続させることができないということから兄弟姉妹は廃除の対象にはなりません。
相続欠格
これは、相続人廃除のしくみとは違って、被相続人の意思はまったく関係ありません。
相続欠格事由があれば、相続人の資格が剥奪される制度です。
相続欠格が認められれば、この相続欠格者は永遠に相続が認められない状態になります。
(遺言に相続する旨の記載があった場合でも相続できなくなります)
認められる事由は以下です。
- 被相続人や自分以外の相続人を故意的に死亡させた
- 被相続人や自分以外の相続人を故意的に死亡させようとした
- 被相続人が殺害されたことを知りながら、告訴・告発をしなかった(この者がまだ子供であった場合や殺害者が配偶者、直系血族である場合は例外)
- 詐欺や強迫によって、被相続人が相続に関する遺言を作成し、これを取り消したり変更をさせたりした
- 詐欺や強迫によって、被相続人が相続に関する遺言を作成し、これを取り消したり変更を妨げたりした
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した
これらの事由に該当すると、特別な手続きがなくても該当者は相続権を失うことになります。
また、この相続欠格者が、被相続人が死亡する前に死亡した場合、代襲相続人が相続します。亡くなった被相続人のことを思うと、代襲相続は認めるの!?と思うかもしれませんが、相続を欠格したのはあくまでもその当人であるため、代襲相続の発生は否めません。
さいごに
たとえ兄弟と絶縁状態であっても、遺産分割協議時には相続人全員の参加がない限り、協議は成立しません。
絶縁状態であれば、前もって遺言書で対策を施しておくこともトラブルの軽減につながります。
相続の発生は突然であることが多いですから、このように絶縁状態である兄弟や家族がいる場合、ひとりで問題を解決していくことはとても困難なことでしょう。
そういった場合は、弁護士や司法書士に相談をすることをおすすめします。
当税理士法人は、相続に強い弁護士や司法書士をご紹介することも可能です。
相続に強い弁護士や司法書士の紹介のみご希望の方は、お問い合わせ時にその旨をお伝えください。
押さえておきたい相続税の知識
申告までの期限が短く、税務調査率が高く、納め過ぎが多い税金です
①被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に申告が必要。
②5件中1件が税務調査され、9割近い確率で追徴課税が発生している。
③過大な財産評価や特例適用の見落としが原因で、8割が納め過ぎです。
相続税申告の期限が短い上に税務調査率が高いことが理由で、たとえ税理士でも安全に過大に申告させてしまうのが相続税です。払い過ぎの場合、税務署は指摘しません。払い過ぎたことを相続人は気づかないままです。
相続税申告を税理士に依頼するか迷われている方はこちらの記事を参考にしてください。
相続税に強い税理士とは?遺産を守り、残せる専門家の選び方
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相続税節税のプロ集団による
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岡野相続税理士法人
代表税理士 岡野 雄志
税理士・行政書士
早稲田大学商学部卒業
相続税を専門に取り扱う税理士法人の代表。
全国各地の相続税申告・還付を累計5,392件(2024年10月末時点)以上手掛ける。
特に土地の評価を得意とし、不動産相続の実績は業界でもトップクラス。
相続税関連書籍の執筆や各種メディアから取材実績多数有り。