政治団体の設立で相続税と贈与税を節税できる?|年間5,000万円までの寄附が非課税
政治資金規正法により、政治家が自らの政党や政治団体間で資金の贈与・相続を行う際の税金は非課税であることをご存じでしょうか。
この記事では、世間で話題となった政治家の裏金問題などにも触れながら、政治資金規正法と税金について解説します。
相続税節税のプロ集団による
最大限節税できる相続税申告を
目次
政治団体や資金管理団体を利用した節税について
自民党の裏金問題が発覚してから半年以上が経ち、6月19日には政治資金規正法改正案が参議院を通過し可決されました。
政界を揺るがしたこの話題ですが、依然として現行の政治資金規正法では、寄附やパーティーで集めた政治資金は非課税扱いで、政治団体の代表者の名義を変更しても相続税や贈与税はかかりません。
また、公職の候補者等が指定した資金管理団体間や、その他の政治団体間において「寄附」の形で資金を移した場合も税金がかかりません。
このため、政界では実態が相続や贈与でも「寄附」という名目にすることで課税を免れることが可能なのです。
資金管理団体を指定すれば非課税で資金移動ができる?
この制度を利用することで相続税や贈与税を節税できる可能性があります。それが、自らが公職の候補者等として資金管理団体を設立し、資金を移動させる方法です。また、子供にも資金管理団体やその他の政治団体を設立させることで、親の資金管理団体から子供の政治団体へ、年間限度額内の5,000万円まで資金を非課税で移す(寄附する)ことが、理論上は可能となるのです。
※東京都選挙管理委員会HP「寄附の制限」より引用
個人からの寄附はどのように行うのか
それでは、政治団体間の寄附の前段階として、個人から政治団体への寄附についてはどのような要件があるのでしょうか。寄附者が公職の候補者等に該当するかどうか、また、受領者が資金管理団体かその他の政治団体かによってその要件は異なりますので、それぞれ解説いたします。
※東京都選挙管理委員会HP「寄附の制限」より引用
・公職の候補者等とは
公職の候補者等とは、現に公職にある者、公職の候補者及び公職の候補者になろうとする者を指します。
・資金管理団体とは
資金管理団体とは、公職の候補者等が、政治資金の拠出を受けるために、その者が代表者である政治団体のなかから指定したものを指します。資金管理団体は、公職の候補者等一人につき一団体のみ指定可能で、その代表者は指定者自身である必要があります。
・その他の政治団体とは
その他の政治団体とは、政党・政治資金団体以外の政治団体を指し、代表的なものとして、主義主張団体や後援団体、特定パーティー開催団体等があります。
①公職の候補者等が、自ら指定した資金管理団体へ寄附する場合
寄附者が公職の候補者等に該当する場合は、自らが指定した資金管理団体へ、年間1,000万円まで寄附することが可能です。
②個人からその他の政治団体へ寄附する場合
個人がその他の政治団体へ寄附する場合は、年間150万円まで寄附することが可能です。
公職の候補者等および、政治団体についての注意点
公職の候補者等とは、市議会議員等の現に公職にある者や、その立候補者や、立候補しようとする者を指します。
また、政治団体についても、政治資金規正法3条1項で以下のように定められています。
・特定の公職の候補者を推薦し、支持し、又はこれに反対することを本来の目的とする団体
・政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対することか、特定の公職の候補者を推薦し、支持し、又はこれに反対することを主たる活動として組織的継続的に行う団体
(一部抜粋)
したがって、当たり前ですが、節税を目的として公職の候補者等になり、資金管理団体や政治団体を設立することは認められていません。
あくまでこの制度は、公益の事業の用に供する資金移動については贈与税や相続税を非課税とする制度のため、寄附をした時点で公益を目的としていないと判断されれば、後から課税対象として指摘を受ける可能性がありますので留意しましょう。
公職の候補者等として選挙へ立候補する場合にかかる費用は?
公職の候補者等として選挙に立候補する場合は、「供託金」を地方法務局に預ける必要があります。「供託金」は当選する意思のない人が売名行為などを理由に選挙に立候補するのを防ぐ目的で定められており、選挙ごとに金額は異なります。
なお、選挙で一定数以上の得票数を得られなかった候補者は供託金を没収されてしまいます。
衆院・参院 | 選挙区:300万円 比例:600万円 |
---|---|
知事 | 300万円 |
都道府県議 | 60万円 |
政令市長 | 240万円 |
政令市議 | 50万円 |
市長 | 100万円 |
市議 | 30万円 |
町村長 | 50万円 |
町村議 | 15万円 |
政治団体の設立方法
政治団体を設立する場合、政治団体を結成した日から7日以内に「政治団体設立届」を県選挙管理委員会か地方支局に届け出る必要があります。
届け出は郵送で提出することはできないため、直接出向く必要があります。
届け出事項は以下の通りです。
・政治団体の規約
手続き方法や必要書類の詳細については、県選挙管理委員会または地方支局のHPを確認してください。
政治団体の設立後必要な作業
政治団体設立届を提出後、政治団体として活動するうえで提出が義務付けられているのが、収支報告書の提出です。
政治団体の会計責任者は毎年3月31日までに前年度の収入、支出その他の事項を記載した収支報告書を提出しなければなりません。この報告を2年間怠った場合は期限を超過した日からどのような理由があっても寄附を受けたり、支出をすることができなくなりますので注意しましょう。
なお収支報告書は公開情報であり、地域によってはインターネット上で公表し、誰でも閲覧可能な状況になっています。
問題はないのか|野党の指摘に総理は……
政治団体間での寄附については最近国会で取り上げられ話題となりました。
今年3月、自民党の茂木幹事長の政治資金団体から自身の後援会組織に10年間で合計3億2千万円の資金を移動させていたことが明らかになりました。
資金管理団体に比べ後援会組織は支出の公開基準が低く、移動した資金について使途の詳細はチェックできません。そのため、野党からは裏金化を指摘する声が上がったのです。これに対し岸田首相は、現行法の範囲内で対応が行われているとし、法的な問題はないとの認識を示しました。
安倍晋三元首相の政治団体も批判の的に
安倍晋三元首相の政治団体と政治資金を、妻で私人の安倍昭恵夫人が非課税で継承した件でも、政治資金規正法が問題視されました。
安倍元首相が代表を務めていた政治資金管理団体「晋和会」と政党支部である「自由民主党山口県第4選挙区支部」の代表が、銃撃事件同日に昭恵夫人に変更され、その後、晋和会には他5つの関連政治団体から2億円以上の資金が寄附の形で移されました。結果、夫婦間で巨額の資産が非課税で継承されたこととなり、これが国会でも批判を浴びました。
特に、政治家ではない私人が政治団体の代表者となった点で、「継承された2億円以上もの資金は、政治資金としてではなく、個人的な資産として夫婦間で相続されただけではないか」と指摘され、脱税疑惑があがったのです。
政治団体を設立することは誰でも可能ですが、これまで説明した通り、実際に設立するにはそれなりの時間と手間がかかります。また、政治活動を行うことが前提ですので、少額で誰でも簡単にできる節税対策を考えている人は暦年贈与を活用しましょう。
暦年贈与とは|誰でも簡単に節税対策ができる
暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間(暦年)で、贈与額が110万円以下ならば贈与税がかからないというしくみを用いた贈与方法のことです。
贈与の際は受贈者(=財産を受け取った人)ごとに、税金(贈与税)の申告が必要になります。
贈与税は、1年間の贈与を合算した額に課税されますが、毎年110万円までは非課税となります。
この「110万円の非課税枠」を利用して毎年110万円を贈与し、相続発生まで地道に相続財産を減らしていく方法を「歴年贈与」といい、昔から節税対策として認知・利用されています。
この暦年贈与は、誰にとっても有効な節税対策ではあるのですが、基礎控除額が110万円までと決まっているので、多額の財産を一度に移行することができないというマイナス面があります。
また、贈与税を払っていませんので、申告書等の「証拠」がありません。贈与の証拠を贈与契約書等で残しておかないと贈与とみなされず、税務署から調査を受ける可能性もありますので注意しましょう。
暦年贈与の進め方は、流れを掴んでいればスムーズに進行できます。
暦年贈与の流れは以下の通りです。
・資金の受け渡しを行う
・贈与金が110万円以上の場合は贈与税の申告を行う
年間110万円の非課税枠を利用する生前贈与は10年、20年など時間をかければ相続財産総額をかなり圧縮することができます。
暦年贈与の具体例
110万円という非課税枠は、贈与を受ける者を基準として計算します。
例えば、子どもが同じ年度に父から50万円、母から60万円を贈与されたとします。この場合、両親からそれぞれ贈与された金額を合計して、「110万円の非課税枠に収まっている」という見方をします。
では子どもが同じ年度に父から100万円、母から110万円を贈与されたとしたら、どうなるでしょうか。
この場合、両親はそれぞれ110万円の非課税枠に収まっていると考えたとしても、子どもは210万円の贈与を受けたことになり110万円を控除した後の金額100万円に対して贈与税がかかります。
贈与税は贈与を受けた側が支払う義務のある税金です。110万円を控除した後の金額が200万円以下であれば10%、3,000万円を超えると55%となり、贈与税は贈与額が大きくなればなるほど税率も高くなります。
暦年贈与と併用できる相続税の非課税制度
節税方法として暦年贈与と併用できる相続税の他の非課税制度は以下の4つがあります。
・住宅取得等資金の非課税制度
・教育資金の一括贈与
・結婚・子育て資金の一括贈与
例えば、教育資金の一括贈与では1,500万円まで非課税で贈与することができ、暦年贈与との併用が可能なので、その年の控除額は最大1,610万円となります。
まとめ
政治団体間の寄附は、年間5,000万円まで非課税で行うことが可能です。そのため、例えば親子で政治団体を設立し、寄附の形で資金移動を行うことで、大きな節税効果が見込まれます。
しかし、実際に政治団体を設立し、政治資金規正法を適用して寄附を行うには、前提として実態の伴う政治活動が行われていなければなりません。
年間110万円まで非課税で贈与可能な暦年課税制度なども合わせて検討し、節税を実現しましょう。
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押さえておきたい相続税の知識
申告までの期限が短く、税務調査率が高く、納め過ぎが多い税金です
①被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に申告が必要。
②5件中1件が税務調査され、9割近い確率で追徴課税が発生している。
③過大な財産評価や特例適用の見落としが原因で、8割が納め過ぎです。
相続税申告の期限が短い上に税務調査率が高いことが理由で、たとえ税理士でも安全に過大に申告させてしまうのが相続税です。払い過ぎの場合、税務署は指摘しません。払い過ぎたことを相続人は気づかないままです。
相続税申告を税理士に依頼するか迷われている方はこちらの記事を参考にしてください。
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相続税は、累進課税方式です。つまり、受け継ぐ相続財産が多くなるほど負担が増える仕組みになっています。そのため、不動産などの相続財産を、税理士がどう評価するかで、支払う相続税額が大きく変わってくるのです。
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相続税節税のプロ集団による
最大限節税できる相続税申告を
岡野相続税理士法人
代表税理士 岡野 雄志
税理士・行政書士
早稲田大学商学部卒業
相続税を専門に取り扱う税理士法人の代表。
全国各地の相続税申告・還付を累計5,392件(2024年10月末時点)以上手掛ける。
特に土地の評価を得意とし、不動産相続の実績は業界でもトップクラス。
相続税関連書籍の執筆や各種メディアから取材実績多数有り。