「上場株式等の相続税に係る見直し」令和3年度税制改正金融庁の要望。
令和2(2020)年9月30日、金融庁は「令和3年度税制改正要望について」を公表しました。今年も「上場株式等の相続税に係る見直し」が要望されています。「令和2年度税制改正要望について」では、相続税評価の具体的な項目が挙げられていました。改正は施行されたのか。例年12月の年末に財務省と総務省が発表する政府税制改正大網の行方も探ります。
金融庁は上場株式等の相続評価を継続要望
実は、金融庁は平成28(2016)年度から「上場株式等の相続税に係る見直し」を要望し続けています。その1年前の「平成31年度税制改正要望について」で、金融庁は相続税の取得費加算特例で3年以内とされている期限制限の撤廃と求めていました。
しかし、与党税制調査会で「株式のみを優遇するのは難しい」との判断により、実現しませんでした。
そこで、翌年の「令和2年度税制改正要望について」で、金融庁は「上場株式等の相続税に係る見直し」についてかなり詳しく、具体的な要望を挙げています。
令和2年度の金融庁による税制改正要望
金融庁「令和2年度税制改正要望について」の「上場株式等の相続税に係る見直し」は、以下の通りです。
項目名:上場株式等の相続税に係る見直し
税目:相続税
要望の内容:
上場株式の相続税評価について、課税時期(死亡日)の前年の年平均株価、課税時期の属する月以前2年間の平均株価も対象とすること。
また、投資信託の相続税評価についても、上場株式の相続税評価と同様に、時価等(以下の【参考】1~6)も対象とすること。
【参考】
- 相続時の時価
- 相続発生月の毎日の最終価格の平均額
- 相続発生の前月の毎日の最終価格の平均額
- 相続発生の前々月の毎日の最終価格の平均額
- 課税時期(死亡日)の前年の年平均株価
- 課税時期の属する月以前2年間の平均株価
新設・拡充又は延長を必要とする理由:
⑴ 政策目的
他の資産との比較における相続税の負担感の差により、投資家の資産選択を歪めることがないよう、上場株式等の相続税評価について、所要の措置を講ずること。
⑵施策の必要性
上場株式等は、不動産等と比較して価格変動リスクの高い金融商品であるが、相続税の評価においては、相続時の時価等で評価される。
このため、上場株式等は、他の価格変動リスクの小さい資産と比べ、相続税評価上の扱いが不利(相続税評価額が割高)となっている。
当該相続税の負担感の差により、投資家の資産選択を歪めることがないよう、上場株式等の相続税評価の見直しが必要。
※金融庁 令和2年度税制改正(租税特別措置) 要望事項(金融庁総合政策局総合政策課) 上場株式等の相続税に係る見直しより抜粋
※尚、丸数字は半角数字に置換しています。
金融庁は、令和2年(2020)年度の税制改正要望において、このほかにも相続税に関して以下の要望を提出しています。
信託受益権の質的分割に係る所要の措置
死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ
非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予・免除の拡充
令和2年度の金融庁要望で税制改正された事項
財務省による令和2年度の『税制改正の概要』を見ると、租税特別措置法等(相続税・贈与税関係)の改正に残念ながら「上場株式等の相続税評価の見直し」の項目は見当たりません。
その代わり、「その他の改正(添付書類の省略)」として、非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予における継続届出書等に、貸借対照表・損益計算書の添付が不要となりました。
非上場株式等について
金融庁は、令和2年年度の税制改正要望において、非上場株式等についても「相続税・贈与税の納税猶予・免除の拡充」を要望していました。要望の概要については、以下の通りとなります。
項目名:非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予・免除の拡充
税目:相続税、贈与税
要望の内容:
(中小企業庁(主管)との共同要望)
非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予・免除制度について、中小企業経営者を取り巻く現状やこれまでの利用実績等を踏まえると、事業承継のより一層の円滑化を図る必要がある。
そのため、先代経営者が株式等につき信託を設定していた場合及び、後継者が株式等に係る信託受益権を相続又は遺贈により取得した場合についても、株式等と実質的に同一視できる場合については、本税制の適用を受けられるよう見直しを行う。
新設・拡充又は延長を必要とする理由:
⑴ 政策目的
経営者の高齢化や後継者不足を原因とした廃業を減少させることが求められている中、技術力やサービス等を含む優良な経営資源を有する中小企業の経営 承継を円滑化させるための手段として、非上場株式等と同様に信託受益権について、納税猶予制度を設けることにより、ひいては、信託の利用の増大、発展を達成する。
⑵ 施策の必要性
中小企業の経営者年齢のピークは既に66歳に達しており、平均的な引退年齢が70 歳前後であることを考えると、経営者の早期かつ計画的な取組を促進する必要があることからより一層の事業承継の円滑化の推進が重要であると考えられる。
そのための手段として、非上場株式等と同様に信託受益権についても相続税・贈与税の納税猶予制度の対象とすることにより、事業承継のより一層の円滑化を支援することが信託の利用の増大、発展のために必要である。
※金融庁 令和2年度税制改正(租税特別措置) 要望事項(金融庁総合政策局総合政策課) 非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予・免除の拡充 より抜粋
上記を見ると、被相続人(亡くなった方)が中小企業の経営者だった場合、事業継承がスムーズに行われるよう、非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予・免除制度にまで踏み込んだ要望となっています。
しかしながら、結果として採択されず、手続きの簡略化にとどまったようです。「上場株式等の相続税評価の見直し」については、令和2年度も見送られる結論となってしまったようです。
▽尚、『非上場株式における納税猶予の特例措置(特例事業承継税制)』『非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例』(平成27年1月1日施行/平成30年1月1日改正)については、以下の国税庁のサイトをご覧ください。
No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等
金融庁の令和3年度税制改正要望
そこで、金融庁は令和3年度税制改正要望においても、「上場株式等の相続税評価の見直し」を唱えています。令和3年度の同要望については、下記の概要となっています。
項目名:上場株式等の相続税に係る見直し
税目:相続税
要望の内容:
高齢者が老後の資金のために蓄えた資産を安心して保有し続けることのできる環境を整備する観点から、上場株式等について、相続税の見直しを行うこと。
新設・拡充又は延長を必要とする理由:
⑴ 政策目的
他の資産との比較における相続税の負担感の差により、投資家の資産選択を歪めることがないよう、上場株式等の相続税評価について、所要の措置を講ずること。
⑵施策の必要性
上場株式等は、不動産等と比較して価格変動リスクの高い金融商品であるが、相続税の評価においては、相続時の時価等で評価される。
このため、上場株式等は、他の価格変動リスクの小さい資産と比べ、相続税評価上の扱いが不利(相続税評価額が割高)となっている。
当該相続税の負担感の差により、投資家の資産選択を歪めることがないよう、上場株式等の相続税評価の見直しが必要。
※金融庁 令和3年度税制改正(租税特別措置) 要望事項(金融庁総合政策局総合政策課) 上場株式等の相続税に係る見直しより抜粋
令和2年度に比較すると、令和3年度は参考6項目が省略されたせいか、ややトーンダウンした印象を受けます。しかし、租税特別措 置の適用又は延長期間として「恒久措置とする」旨を示しているので、金融庁には粘り強く要望し続けてほしいものです。
上場株式等の相続税に係る見直しの今後は
「上場株式等の相続税に係る見直し」を、なぜ、金融庁に要望し続けていただきたいか。それは、金融庁も指摘している通り、上場株式等は価格変動が激しい商品であるにも関わらず、相続時から相続税納付期限まで10ヵ月間ある期間の価格変動リスクが考慮されていないからです。
納税者のスタンスに立って考えれば、非上場株式と同様、相続発生時(被相続人が死亡されたのを知った日)の前年の年平均株価、課税時期の属する月以前2年間の平均株価でも評価できるよう配慮してほしいものです。
各業界団体からの税制改正要望
例年、各省庁の税制改正要望が公表されるタイミングに合わせて、各業界団体からの税制改正要望書や意見書、建議書などもネット上や業界紙誌などに発表されます。
国家資格である税理士の登録管理を行う日本税理士会連合会と日本税理士政治連盟も、令和2(2020)年7月に『令和3年度 税制改正に関する要望』を発表しました。
その中で、「取引相場のない株式等の評価の適正化」「相続税の更正の請求に関する特則事由の見直し」「連帯納付義務の廃止」「相続時精算課税制度の見直し」を要望しています。
また、一般社団法人 日本経済団体連合会(経団連)も、令和2(2020)年9月15日に『令和3年度税制改正に関する提言』を発表。経団連も、「上場株式等の相続税評価の見直し」を要望しています。
株取引の当該業界団体である日本証券業協会、投資信託協会、全国証券取引所協議会も連名で令和2(2020)年9月『令和3年度税制改正に関する要望』を発表。「上場株式等の相続税評価等の見直し」を求めています。
今年度、「上場株式等の相続税評価等の見直し」は採択されるのか。新型コロナウイルス感染症の影響で、税制改正要望は1カ月遅れとなりましたが、例年なら年末までに税制改正大綱が取りまとめられるはずです。
与党による税制改正大綱、それに次ぐ政府税制改正大綱は税理士会や経済界、マスコミ各社から注目を集めます。今年は特に「上場株式等の相続税評価等の見直し」がどうなるか、要注意です。
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税理士・行政書士
早稲田大学商学部卒業
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特に土地の評価を得意とし、不動産相続の実績は業界でもトップクラス。
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