【不在者財産管理人とは?】役割、選定方法や条件について解説
遺産分割の手続きは相続人全員参加が大原則。行方知れずなどで相続人の中に連絡の取れない人が1人でもいようものなら、協議は進めることもできません。所在が知れない相続人がいる場合、どうしたらよいのでしょうか。それを解決するのが不在者財産管理人です。
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目次
不在者財産管理人の役割
不在者財産管理人は行方もわからず、連絡もまったく取れない行方不明者(法律上では”不在者“と呼びます)の財産を、行方不明者本人の代わりに管理します。
親族が行方不明で困った事態に陥るとき、それはたいてい、ほかの誰かが亡くなって、不在者に相続権があった場合です。
このようなとき、不在者の代わりに遺産分割協議に参加したり、相続財産を管理したりする人、不在者財産管理人が大きな役割を果たします。
どのようなケースで必要になるのか?
不在者が相続人となった場合に限らず、不在者の財産に関して本人でなければ対応できないとき、不在者財産管理人が必要となります。
具体的には、
- 不在者名義の預金を下ろすとき
- 不在者名義の不動産を、改築・増築・解体したいとき
- 不在者が借りたアパートの解約手続きをしたいとき
- 債務者が行方不明になり、債権回収が難しくなったとき
- 不在者の家族が亡くなり、遺産分割の手続きが必要になったとき
“ご本人であれば、問題ないのですが……”と銀行の窓口などで大変な思いをしたことがある方は思い当たるのではないでしょうか。
不在者財産管理人になるには?
不在者財産管理人は有志や立候補でなれるものではありません。
また、不在者があらかじめ財産管理人を置いたり、親権者や成年後見人などの法定代理人がいる場合には、不在者財産管理人を置くことができません。
不在者財産管理人には、不在となった人の配偶者や相続人、債権者など、いわゆる利害関係人の申し立てによって、家庭裁判所が選任します。
不在者財産管理人を選定する2条件
不在者財産管理人を選任するためには
- 不在者が財産の管理人を置かなかったこと
- 利害関係人または検察官からの申し立てがあること
この条件が必要です。
ここで言う「利害関係人」とは、法定相続人はもとより、不在者と法律上なんらかの利害関係がある人のこと。具体的には不在者の配偶者、不在者の相続人となる子、債権者・債務者、財産の共有者などがそれにあたり、不在者の友人や知人などは申し立てできません。
不在者の生存が確認されているかどうかは問われませんが、死亡認定や失踪宣告の手続きがされた人は、不在者に該当しません。
不在者であるかどうかは、最終的に家庭裁判所が判断します。その判断材料は提出された資料であったり、申し立て人や不在者とされている人の親族からの事情聴取です。
不在者財産管理人に選ばれるには?
不在者管理人は、利害関係人の請求によって家庭裁判所が選任しますが、利害関係のない親族などの中から不在者財産管理人の候補者を挙げることができます。
ただし適切な候補がいない場合は、弁護士や税理士、司法書士など、法律の専門家から選定されるのが一般的です。
不在者財産管理人の仕事は?
遺産分割が終われば不在者財産管理人の仕事も終わり、ではありません。就任したら主にしなければならないことは次の3つです。
- 民法27条にのっとって、財産目録を作成し、裁判所に報告する
- 不在者本人の財産を調査して一覧にし、定期的に家庭裁判所に報告する
- その他必要に応じて、不在者本人の財産を管理する
財産の管理には、現状維持のための修繕や契約の更新などが挙げられます。
不在者財産管理人はある種、法定代理人とみなされるので、不在者の不利益になるようなことを行った場合、他の管理人に交代させられるほか、損害賠償請求されたり業務上横領の罪に問われたりする可能性があります。それほど不在者財産管理人の仕事は重責なのです。
不在者財産管理人の仕事を終了するには?
次の条件に該当したとき、家庭裁判所に“不在者財産管理人選任処分の取り消し処分の申立”を行い、任を降りることができます。
- 不在者が戻ってきたとき→不在者本人に財産管理を引き継ぎ
- 不在者が死亡したとき→不在者の相続人に財産管理を引き継ぎ
- 不在者について失踪宣告されたとき→不在者の相続人に財産管理を引き継ぎ
- 不在者の財産がなくなったとき
不在者財産管理人の仕事を終了するにも家裁の審判が必要になることは肝に銘じておきましょう。
不在者財産管理人の選定ステップ
不在者財産管理人を選定するステップは次の通りです。
- 家庭裁判所に選任の申し立てに必要な書類を提出
- 家庭裁判所による選定
もっともふさわしい人を不在者財産管理人に任命するため、家庭裁判所は書類を確認するほか、必要に応じて申し立て人に書類や呼び出しで質問することがあります。
不在者財産管理人を申し立てるには
不在者財産管理人の申し立ての請求を行うのに何が必要なのか、表にまとめました。
誰が | どこに | どうする/必要書類 | 必要な費用 |
---|---|---|---|
不在者の利害関係人または検察官 | 不在者の従来の住所地 または 居所地を管轄する家庭裁判所※1 |
次の書類を提出
|
収入印紙800円分 裁判所との連絡用郵便切手代※6 予納金(30万円〜100万円) |
※1管轄区域は、裁判所のホームページで調べることができます。
※2書式と記載例が裁判所のホームページに掲載されています。申し立て人と不在者の住所氏名、申し立ての理由などを記載します。不在者財産管理人の候補者がいる場合にはここに記載します。
※3警察が発行する捜索願受理証明書、不在者宛に送られたが戻ってきた郵便物、関係者から事情を聞いた陳述書など
※4 不動産の登記簿、通帳のコピーや残高証明書など、預貯金や有価証券などの残高が分かる書類
※5戸籍謄本、契約書のコピーなど
※6裁判所によって異なるので、どのくらいかかるかを家庭裁判所で確認します。
予納金について
不在者財産管理人の選任を申し立てるには、申立手数料と一緒に予納金が必要になる場合があります。
予納金とは、今後の財産管理のための必要経費のこと。これは、不在者本人の財産が少なく、管理経費をまかないきれない場合、不在者財産管理人の選任を申し立てる人からあらかじめ裁判所に預ける必要があります。
財産管理のための必要経費とは、具体的には「預金を下ろす時にかかる窓口手数料」や「不動産を売却するための査定費用」などの経費のこと。民法27条1項で、不在者本人の財産から支払われると決められています。
不在者財産管理人の報酬について
裁判所に請求することによって、不在者財産管理人は報酬を得ることができます。
民法29条によれば、報酬額は「不在者本人との関係性」「財産の規模」「管理の期間」「仕事の内容」などを考慮し、家庭裁判所を決め、不在者の財産から支払われますが、支払えない場合は予納金から支払われます。
予納金の返還について
管理経費と管理人の報酬を支払い終えた結果、予納金に余りがある場合は、選任申立をした人に返還されます。
不在者財産管理人が遺産分割協議に参加するには
晴れて不在者財産管理人に就任すると、遺産分割協議に参加する可能性が高くなります。この場合、遺産分割や財産の売却など、法定代理人の権限を超える行為におよぶことから、民法28条にのっとり、別途、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
必要な手続きとは?
不在者財産管理人が遺産分割協議に参加するには、不在者財産管理人の申し立てとは別に、「不在者財産管理人の権限外行為許可の申立書」を裁判所に提出します。
この申立書のほかに添付書類として、遺産分割の場合は遺産分割協議書案、財産売却の場合は売買契約書案を提出する必要があります。
不在者財産管理人のメリットとデメリットは?
長引く可能性のある相続問題の解決に一役買う「不在者財産管理人」、そのメリットとデメリットについて、まとめてみました。
メリット | 理由 |
---|---|
不在者の財産から生活費を確保できる | →不在者の貯金をいつでも下ろすことができるようになります。 |
住居の荒廃や家賃滞納を防ぐことができる | →不在者財産管理人の仕事に含まれています。 |
行方不明者の家族が亡くなっても、相続手続きができる。 | →不在者財産管理人が代理人として遺産分割協議書にサインし、本人不在のまま進めた相続手続きを有効に進めることができます。 |
デメリット | 理由 |
選ぶ権限は家庭裁判所にあるため、家庭事情を全く知らない第三者が選任されることがある | →管理人候補者と不在者が揃って相続人になった場合、遺産分割協議で利益相反の関係になるため候補者は選任されず、家裁が把握している弁護士や税理士などの候補者から選任されることがあります。 |
「財産管理にかかる費用」が申立人負担になることがある | →不動産・株式などの有価証券・債務など、管理に経費がかかる財産には、不在者の預貯金で経費をまかないます。それが不可能な場合は、選任申立をした人が負担する必要があります。 |
すぐに遺産分割手続きを始められるとは限らない | →「権限外行為許可」は、6か月程度かかるため、不在者財産管理人が付く場合、半年以上も手続きが滞る可能性があります。 |
不在者財産管理人の改任は原則できない | →民法第26条では不在者財産管理人を改任する権限は、家庭裁判所にあると定めています。これは不在者財産管理人の法律上の目的が、不在者の利益を守ることにあるためです。 「不在者の家族と管理人のウマが合わない」という理由は考慮されません。 |
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不在者財産管理人のまとめ
財産を確認したり、管理する業務は非常に膨大で重いものがあります。
不在者財産管理人の制度を利用すれば、相続人の中に行方が知れなくなり連絡がとれない人がいても、裁判所を通じて適法に相続手続きをすることができますが、遺産の分割や相続財産の売却などで、「権限外行為許可」という手続きが必要なことも事実です。手続きが不安な方は、司法書士、弁護士等の専門家に依頼することをお勧めします。
相続に強い司法書士、弁護士の紹介をご希望の方は、お問い合わせ時にその旨をお伝えください。
押さえておきたい相続税の知識
申告までの期限が短く、税務調査率が高く、納め過ぎが多い税金です
①被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に申告が必要。
②5件中1件が税務調査され、9割近い確率で追徴課税が発生している。
③過大な財産評価や特例適用の見落としが原因で、8割が納め過ぎです。
相続税申告の期限が短い上に税務調査率が高いことが理由で、たとえ税理士でも安全に過大に申告させてしまうのが相続税です。払い過ぎの場合、税務署は指摘しません。払い過ぎたことを相続人は気づかないままです。
相続税申告を税理士に依頼するか迷われている方はこちらの記事を参考にしてください。
相続税に強い税理士とは?遺産を守り、残せる専門家の選び方
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代表税理士 岡野 雄志
税理士・行政書士
早稲田大学商学部卒業
相続税を専門に取り扱う税理士法人の代表。
全国各地の相続税申告・還付を累計5,392件(2024年10月末時点)以上手掛ける。
特に土地の評価を得意とし、不動産相続の実績は業界でもトップクラス。
相続税関連書籍の執筆や各種メディアから取材実績多数有り。