「土砂災害特別警戒区域」の別荘を相続した養子の還付事例

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土砂災害特別警戒区域

別荘地の相続も自宅の土地と同様、地目の確認を行い、不動産評価の上、相続税額を算出します。住まいとする建物があれば、通常、宅地とみなされます。しかし、その宅地が「土砂災害特別警戒区域」にあったらどうでしょう。今回は、そんな別荘地を相続し、還付につなげた事例をご紹介いたします。

資産家の養子となり別荘を手にした幸運の主

今回は私の個人的な友人についての事例をご紹介しようと思います。彼は、観光地・温泉場として全国に知られる地域で、亡くなった両親から受け継いだラーメン店を営んでいました。「昭和レトロ」と言えば聞こえはいいですが、店舗はお世辞にも立派とは言えません。

おまけに、彼自身も商売上手とは言えず、親しくする数少ない常連客が来店すると、暖簾を引っ込め、メニューにはない肴をふるまってしまう、そんな男です。店舗近くの別荘に住むCさん夫妻も、そうしたお人好しの彼と懐かしい味わいのラーメンを愛する常連客でした。

ラーメン屋

程なくCさんのご主人が他界され、お子さんのいないC夫人を心配した彼が食事の支度を手伝ったり、車で買い物の送り迎えをしたりと、何くれとなく生活のサポートをするようになりました。彼も天涯孤独でしたから、C夫人に母親の面影を見たのかもしれません。

そんな交流が何年か続き、C夫人も彼が息子のように思えてきたのでしょう。自分の養子にならないかと、彼に要望しました。しかし、彼は承知しませんでした。遠慮したというより、彼自身の亡くなった実親への愛着があったからだと、友人としては想像します。

やがて、C夫人も病を得てしまいます。病院への送り迎えをするたびに、「このまま自分は家族に看取られることなく最期を迎えるのだ」と嘆く夫人に、ついに彼も折れ、養子縁組を承諾しました。

養子縁組には、「特別養子縁組」と「普通養子縁組」の2種類があります。「特別養子縁組」は従前までの親子関係をすべて断ち、新たな親子関係を創設するもので、家庭裁判所の審判を要します。C夫人と彼が選択したのは、実親との親子関係も継続できる「普通養子縁組」でした。養子の戸籍にも、養親と並んで実親の名前が記載されます。

ご高齢のC夫人は昨年、病が悪化し、亡くなりました。望み通り養子である彼という家族に看取られて。そして、彼には温泉地の別荘と、もうひとつ、C夫妻が夏を過ごしていた白樺林に囲まれた避暑地の別荘が、遺産として転がり込んだのです。

「土砂災害特別警戒区域」の発表でツキが一転!?

C夫人はご存命中、彼に「相続放棄」「財産放棄」(遺産放棄)しないように約束させました。そして、2軒の別荘を売却し、それを資金として彼のラーメン店を改装するか、あるいはもっと来店客が訪れやすい場所に移転することを望んでいました。

幸い温泉地の別荘も、避暑地の別荘も、人気の別荘地にあったため、すぐに買い手が付きました。もちろん、相続不動産を売却し現金化しても、評価額に基づいた相続税の納税義務はあります。それでも、納税後も店舗を新しくする資金は十二分に彼の手元へ残ったはずです。

ところが、一向に彼は店舗を改装する気配を見せません。

彼に理由を尋ねると、「近所の目がある」と言うのです。多くの人で賑わう観光地とは言え、住民は限られた狭い町です。C夫人が亡くなってすぐに店舗を拡充などしたら、周囲の人に何を言われるかわからないと、彼は恐れているのでした。

やりようによっては、店舗を増やしてチェーン店化し、事業として拡大したのち、フランチャイズ権を売却してさらに財産を増やすことも不可能ではありません。商売っ気がなさすぎるにも程があります。しかし、彼の性格を知り尽くしている友人たちは嘆息するしかありませんでした。

そんな彼が、ある日、慌てふためいて電話をよこしてきました。売却した避暑地の別荘のある県が、近頃、「土砂災害特別警戒区域」の見直しをしました。そこで、彼がハザードマップを確認したところ、その土地がわずかながら区域内に掛かっていると言うのです。

彼は、売却先に知らせたほうが良いか、クレームが来ないかと心配していたのです。

もちろん、不動産の売買契約が交わされた時点で、その土地が「土砂災害特別警戒区域」にあることが判明していれば、購入者に重要事項説明として伝える義務があります。しかし、契約時点では判明していなかったこと、「土砂災害特別警戒区域」は見直しが発表されるまでに時間が掛かることを伝え、ひとまずは彼を落ち着かせました。

土砂災害防止法による警戒区域には、危険度の高い「土砂災害特別警戒区域」(レッドゾーン)と、土砂災害の可能性がある「土砂災害警戒区域」(イエローゾーン)があります。降雨などの影響を受け、危険度は変化するので、現地測量や土石到達の範囲算出といった調査を行うため、見直し発表までに月日を要します。調査の結果、「土砂災害警戒区域」が「土砂災害特別警戒区域」になることや「土砂災害特別警戒区域」が解除されることもあります。

相続税還付を果たしたその後の顛末は……

人の好い彼はまだ購入者を案じていましたが、買い手は大手の不動産業者であったため、いずれ大規模な対策工事が行われることでしょう。それよりも、相続税専門の税理士という職業柄、彼の相続税のことが気になり、相続不動産の評価額見直しを申し出ました。

というのも、平成30(2018)年12月に財産評価基本通達が一部改正され、「土砂災害特別警戒区域内の宅地評価」が新設されたからです。「平成 31 年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用」とされているので、彼の相続した別荘地はまさにこれに当てはまります。

ただし、レッドゾーンの「土砂災害特別警戒区域」内にある土地は相続税減額の対象となりますが、イエローゾーンの「土砂災害警戒区域」は対象となりません。そこで、当税理士法人で現地と役所の再調査を行って、徹底的に評価額の見直しをしました。

すると、彼が売却した裏側にある崖地の土地も、レッドゾーンに含まれることが判明しました。レッドゾーンは開発行為の制限や建築物の構造に対して厳しい規制が設けられているため、売却には適しませんが、相続税を減額するための評価見直しには適用できます。

特別警戒区域の地積/補正率 総地積
0.10以上 0.90
0.40以上 0.80
0.70以上 0.70

※参考:国税庁「別添 土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価」

相続税還付のための手続き「更正の請求」を当税理士法人で行い、近々、彼には超過分の税金が1,000万円近く戻るはずです。その後、果たして彼が店舗を改修、または移転するのか。友人としては、正直なところ、どこか懐かしい味わいと居心地を保ってくれたほうが嬉しい気がします。

当記事は、幻冬舎ゴールドオンラインでも取り上げられています。

押さえておきたい相続税の知識

申告までの期限が短く、税務調査率が高く、納め過ぎが多い税金です

①被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に申告が必要。

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相続税申告の期限が短い上に税務調査率が高いことが理由で、たとえ税理士でも安全に過大に申告させてしまうのが相続税です。払い過ぎの場合、税務署は指摘しません。払い過ぎたことを相続人は気づかないままです。

相続税申告を税理士に依頼するか迷われている方はこちらの記事を参考にしてください。

相続税に強い税理士とは?遺産を守り、残せる専門家の選び方
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特に不動産・土地を相続する方はご注意ください

相続税は、累進課税方式です。つまり、受け継ぐ相続財産が多くなるほど負担が増える仕組みになっています。そのため、不動産などの相続財産を、税理士がどう評価するかで、支払う相続税額が大きく変わってくるのです。

当税理士法人は、国内トップクラスの相続税の還付実績で培った知識と経験から、1つ1つの土地に適した評価を早く正確に行います。こうした適正な土地評価が、大きな相続税の節税につながります。

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この記事の監修者

岡野相続税理士法人
代表税理士 岡野 雄志

税理士・行政書士
早稲田大学商学部卒業

相続税を専門に取り扱う税理士法人の代表。
全国各地の相続税申告・還付を累計5,430件(2024年11月末時点)以上手掛ける。
特に土地の評価を得意とし、不動産相続の実績は業界でもトップクラス。
相続税関連書籍の執筆や各種メディアから取材実績多数有り。

相続税専門の岡野雄志税理士
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